The Making Of AW25

タスマニアの雄大な自然美に導かれた「The View Down Here」。
クレイドルマウンテンの険しい峰々からセントクレア湖の静かな水面まで――大自然の厳しさと柔らかな光が交わり、野生的でありながら洗練された美しさを描き出します。
カーキやマッシュルームの落ち着いたトーンに、差し色を加え、自然の静けさと力強さを色彩で表現しました。ニュートラルカラーはあたたかさとタイムレスな魅力を添えます。シルエットはリラックス感を大切にし、使い込むほどになじむデザイン。静かな朝から光に包まれる午後まで、身につける人の日常に寄り添います。
今回はデザインディレクターに、秋冬’25 コレクション誕生のストーリーをうかがいました。
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まずはじめに、秋冬’25 コレクションはどこから着想を得たのでしょうか?
私はこれまで幸運にも、タスマニアで多くの時間を過ごしてきました。オーストラリアでも特に自然が美しく残る土地です。だからこそ、Helen Kaminski で初めて携わるウィンターコレクションでは、自分にとって身近で大切なその土地からインスピレーションを受けたものにしようと思ったんです。制作が進むにつれて、ふたつの物語がみえてきました。ひとつは自然の中で過ごす時間――険しい道を歩いたり、水辺で冷たい空気を感じたり、自然の力強さに包まれる瞬間。もうひとつは家の中での安らぎ――暖炉のそばで、柔らかなブランケットにくるまれながら本を読むようなひととき。
この「探検」と「くつろぎ」、対照的だけれどつながりのあるふたつの感覚が秋冬’25の核になり、素材や質感、色合いに温かさとタイムレスな魅力を与えてくれました。
シーズンのテーマは、素材やシルエットにどう落とし込まれていますか?
自然の中で過ごす時間からハイキングウェアや丈夫な素材へのインスピレーションにつながりました。ウールチェックやレザー、撥水加工などが実用性を備えつつ、洗練さを加えてコレクションの軸になっています。今季のシルエットは、ブリムを顔に寄せたデザインが特徴です。特に新しく登場する「クロシェ」スタイルは、クラシックなレインハットをモダンに解釈し、都会的にアレンジしたもの。起毛素材やチェック柄で仕上げています。キャップも今季は重要な役割を担っていて、冬のワードローブに取り入れやすいように発展させました。レザーやウール、質感のある素材で表情を豊かにしました。そして、今回初めて「Helen Kaminski」のシグネチャーキャップも登場します。ウォッシュ加工で、使い込んだようなリラックス感を表現してみました。
今シーズン特に惹かれた素材は
長年レザーを扱ってきたこともあり、今季は特にシアリングに強く惹かれました。LWG認証のタンナリーと協力し、自然な美しいスキンを選んでいるので、ひとつひとつがユニークです。シアリングの魅力は、贅沢さと機能性をあわせ持つところ。先日雪の中で身につけたとき、その「シックなのに居心地の良い」感覚を改めて実感しました。

Helen Kaminski にとってクラフトは常に中心的な存在です。今シーズン、特に意味を持った技法や新しい試みはありましたか?
「ウールクロシェ」のコレクションは、私にとって特別な存在です。その理由は、Helen Kaminski に入社してすぐの頃、マスタークラフトマンの Garry が見せてくれた小さな編地のサンプルにあります。デザインルームに何気なく置かれた糸玉を手に取りながら、実はずっとこの技法を試したいと思っていたと語ってくれたのです。秋冬’25のテーマが固まったとき、これこそ今季にふさわしいと確信しました。
ウールの厚みある編み目や、まだらな色合いはセントクレア湖の小石から着想を得ました。ラフィアの職人たちにお願いし、硬い葉を編む技術を柔らかな糸に応用してもらったのです。ほどなくして独自のウールブレンドが形になり、ビーニーやオーバーサイズのスカーフとして完成しました。タスマニアに寄り添うようにデザインされ、ハンドクラフトの魅力をモダンで触感豊かなかたちで表現しています。

Helen Kaminski のコレクションでは、色がとても大切な役割を担っています。秋冬’25 のカラーパレットはどのように生まれ、素材に落とし込むことでどんな表情を見せましたか?
秋冬’25 のパレットは、タスマニアの風景から直接インスピレーションを得ました。ベースとなるのは、クレイドルマウンテン周辺の澄んだ空気を映すような、クールなニュートラルカラーです。
ニュートラルカラーは Helen Kaminski の冬の定番ですが、今季はそこにタスマニアの自然を映した鮮やかなシーズナルカラーを加えています。ユーカリを思わせるウォッシュドカーキやミスト。森の大地を映すマッシュルーム。冬空の低い雲を思わせるクリームは、シアリングやブークレの質感で表現しました。さらに、新芽を象徴するシャルトルーズが、生命感を添えています。冬でも、太陽の光で風景が一変し、再び息を吹き返す瞬間があります。
その輝きをカラーパレットに映し出し、新鮮さと落ち着き、そしてさりげない力強さを表現しました。

シーズンごとに課題があると思います。今季は特に難しかった素材やシルエット、プロセスはありましたか? そしてそれをどう乗り越えましたか?
私たちにとって、バルナ平原のサステナブルなウールフェルトは特別な存在であり、長年大切にしてきた素材です。今季はそのフェルトを新しいかたちへと進化させたいと考え、装飾をそぎ落とし、純粋で彫刻的なシルエットに挑みました。しかし、それは想像以上に大きな挑戦でした。装飾を省いたことで、工程は一気に難しくなりました。縁はすべて正確に手作業でカットしなければならず、さらに内側のバンドの位置も再検討が必要でした。その結果、従来の成形工程そのものを根本から見直さざるを得なかったのです。フェルト工場にとっても初めての試みでした。そこでマスタークラフトマンの Garry が工場に赴き、チームと肩を並べて技術を磨き上げ、コンセプトをかたちにしました。
伝統と革新が交わるそのプロセスを経て生まれたコレクションは、静かに革新的でありながら、クラフトへの深い敬意に根ざしたものになったと思います。
サステナビリティはデザインにおいて大切なテーマです。秋冬’25 では素材やデザインの選択にどのように反映されましたか?
サステナビリティは、私たちのものづくりの中心にあります。秋冬’25 では、すべてのレザーを LWG 認証のものにし、OEKO-TEX 認証のウールブレンドや GRS 認証のリサイクルナイロン、さらに 100% リサイクルのフェイクファーを採用しました。選ぶ素材は、ラグジュアリーな質感や機能性を持ちながら、環境配慮がしっかり裏付けられたものばかりです。そして何より大切にしているのは、シーズンを超えて愛用されること。特にファブリックハットは、長く使えるようにデザインしています。毎シーズン新たな魅力を感じていただけるよう心がけています。今季のコレクションの中で、思いがけず存在感を放ったアイテムはありますか?
「ベーカーボーイ」(キャスケット帽)ですね。最初の段階では、キーアイテムになるとは考えていなかったです。でもデザインを進め、日常のスタイリングを思い描くうちに、どんなアイテムとも相性がよく、シルエットも美しいので、チームみんなが「自分も欲しい」と思うようになったほどです。
お客様のライフスタイルを思い描いたとき、秋冬’25 の中で日常に溶け込みそうなアイテムはどれでしょうか? その理由も教えてください。
ひとつに絞るのは難しいですね。お客様によって答えは違うと思います。ファッション感度の高い方には、まず「ウールブレンドチェックのベーカーボーイ」が目に留まるでしょう。アウトドアでも十分な暖かさがあり、デニムに合わせれば日常のスタイルにもすっと馴染みます。
私自身が特に気に入っているのは「起毛ウールコレクション」のふたつです。シーンを選ばず、ドレスアップにもカジュアルにも合わせられるのが魅力ですね。「Zahara」クロシェと「Beckett」キャップは、通勤の朝にも、大自然の中でも、季節を問わず活躍してくれると思います。
制作の過程で、思いがけず心に残った瞬間はありましたか?
正直、一番驚いたのは「自然の美しさを改めて再発見したこと」です。タスマニアは本当にインスピレーションの宝庫であり、しかも私たちの“ホーム”であることが特別な意味を持ちました。これまで何度も訪れているのに、コレクションのために写真を撮りためる中で、新しく行きたい場所が次々と見つかっていったんです。次の訪問をすでに楽しみにしていますし、そのときは秋冬’25 のアイテムを身につけて美しい風景の中で過ごしたいと思います。
最後に、たった3つの言葉で秋冬’25 の世界を表すとしたら?
静けさ。自然。多様性。